川上弘美さんという作家は、僕にとって好きな作家のうちのひとりです。今のところ一番好きだったのは、『センセイの鞄』なんだけど、これは年老いた教師と昔の教え子の恋愛を絶妙のタッチで描いた傑作だと思っています。
この『ニシノユキヒコの恋と冒険』も恋愛を描いた作品です。文章として、小説としては、とても良い作品だと思うのだけど、ニシノユキヒコと女性達の恋愛は、良い感じとは言えないところがあります。ニシノユキヒコがとんでもない女たらしで、大勢の女性との恋愛を曲がった感じで楽しんでいるようなのです。
タイトルを見ると、主人公はニシノユキヒコのようですが、そうではなくて女性達の視点で描かれていて、むしろその女性達が主人公なのです。いろいろな女性の、いろいろな恋愛を描いていて、その対象がニシノユキヒコなのです。『センセイの鞄』とは違って、『ニシノユキヒコの恋と冒険
』で描かれている恋愛は、心地良いものではないのですが、だからと言ってどちらが小説として面白いかということには無関係な気がします。