『おめでとう』川上弘美

投稿者: | 2018年11月6日

川上弘美さんと言うと、一番好きな小説は『センセイの鞄』だ。淡々とした文章の中にある、ちょっとした深みに、まんまと嵌まってしまった感じになる。物語の進行も淡々としているところが、更に心地良いと思った。それでいて、何とも言えない面白さがある。

『おめでとう』は、12の短編が収録された短編集だけど、その『センセイの鞄』のイメージに近い短編が多かった。ほとんどがそうだった。その中で最も印象に残っているのは、冒頭に収録されていた「いまだ覚めず」という短編である。

女性同士でちょっとセクシャルな関係を持った友達に、久々に会いに行く話。友達は既に結婚していて、三島に住んでいる。主人公は小田原で笹かまぼこを土産に買ったが、お腹が空いていて行く途中で全部食べてしまう。その描写がとても面白い。とても面白いけれど、声を出して大笑いするような面白さではなく、クスッと心の中で笑ってしまうような感じなのだ。それが良いと思う。

例えば悲しい物語でも、ボロボロ涙を流すのではなく、淡々と読み進めて、最後でポロッと一粒の涙が零れる、そんな感じなのである。中には恋人と別れる話もあるが、実に淡々としていて、ちょっとだけどこかで未練のカケラが見える、そんな感じなんだと思う。そんなところが大好きな、川上弘美さんの文章を堪能できる短編集だった。
(72冊目/2018年)


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